大井川鐵道もう一つの魅力。それは大手を引退した特急車両。乗ったはずの矢野Yさん自身が覚えていないとのことで前回、前々回では触れられませんでした。
そこで、旅行日から遡ること約1ヶ月。しずトラの中の人が2018年3月に大井川鐵道大井川本線にちょっとだけ訪問した時の話を付け加えたいと思います。

動くSLを間近で味わう

大井川鐵道金谷駅
金谷駅。大井川鐵道の駅舎。ここが新金谷発のSL列車やアプト式鉄道、寸又峡温泉などの温泉地へ向かう奥大井観光のスタート地点だと知らなければわからないくらい小さくて地味な駅舎。四角い建物には風情も何にもない。

別の取材で金谷に来たわけだけど来てみるとやはりちょっとは見てみたいし乗ってみたくなるが、今度の列車は50分も後。大井川本線の特徴を考えればここに長くいてももったいないので歩いて新金谷駅まで行ってみたいと思う。新金谷は大井川本線の拠点であり、いわば“SLの基地”だからわざわざ行く意味があるはずだ。

金谷の町
というわけで金谷の町を歩く。「かなや」は「シメジ」と同じようなアクセントで呼ぶらしい。JRの車掌がそうだった。昔ながらの電器店や鮮魚店などが並ぶこの町は、夕刊配達のバイクが通り、帰宅する中学生が通り抜け、どこにでもあるような夕方の光景だった。

新金谷駅
町を抜け、橋を渡り、歩くこと20分。見えてきた踏切を頼りに道を曲がると新金谷駅にたどり着いた。古いけどこの風格。広い駅前広場の前に堂々と構える駅舎。

蒸気機関車(SL)が牽引する客車列車がメインの時代は付け替えなどのために主要駅は大きな構内が必要でそれに見合う駅舎、駅前広場となっているのだから、電車時代ののりかえだけを目的とした金谷駅のしょぼさとは異なるのは当たり前のことだ。

わざわざご丁寧にも「転車台」への案内標識が立っている。SL列車観光に力を入れている現代にこうしたある種時代遅れな「大きな駅」は、併設されている車両基地とともに“これ自体”が観光になるのも理解できるが、若干の違和感を禁じ得ない。

それは見たいけれどどこか見世物と化した転車台にお上りさんよろしく勇んで向かうのも気が引ける。そう思って大井川鐵道所有であろうだだっ広さすら感じる駅前広場兼駐車場をのんびり歩いているとなんとSLが音を立ててこちらへ近づいてくるではないか。C10が音を立てながら煙を吹き上げ係員を脇に乗せて移動している。入換作業だ。
やってくるC10

手の届くような場所でのSLの入換作業はなかなかないと思う。転車台に行かなくて良かったではないか。
C10入換

係員が地面に降りて手動で転轍操作して転線。そうした一部始終が安全な駅前広場の一角から無料で合法的に間近で見られるのだ。これには驚いたし、うれしい収穫だ。本日の営業運転を終えた後なのだな。タイミングも幸運だった。
動くSL
動くSLは静態保存の何倍も楽しい

昔使っていたであろう転轍機が保存展示されている休憩スペースがあり、そこは線路のすぐそばでホームもよく見える。留置されている旧型客車がこれでもかとレトロな雰囲気を醸し出していた。1940年代にタイムスリップするのにタイムマシンの必要はないらしい。
旧型客車停泊・新金谷
これが2018年3月の光景だと信じられるか

JR金谷から一駅で本物レトロ感。動くSLと未だ現役の旧客を見るためだけに新金谷に来る価値は大いにある。ただ、歩いてくるなら何かお金を落とそう。自動販売機の清涼飲料水でも良いと思う。がんばって動態保存している鉄道会社にお金が入ることが大事だ。

ところで乗らなかった金谷発の普通列車はまだ来ない。ここから乗っても芸がないと勝手に考え、千頭方面へ何駅か歩いてみたい。行けたところから金谷へ戻る列車に乗ってみようと思う。

しかし、本日は本当に平日の夕方なのだろうか。まだ列車は来ないとはいえ駅に通学帰りの人すら見かけないとは。

揺れる“近鉄特急” ミスマッチ感が凄まじい

スマートフォンの地図アプリを頼りにまずは代官町へ。今度は平らな新興住宅街。20分くらい経過。乗らなかった金谷発の普通列車が通り過ぎる時刻が近づいてきたので線路沿いの脇道に入ってみた。

大井川本線の近鉄中古
遠くから音がした。“近鉄特急”だ。単線をゆっくりとした速さで通り過ぎる。「ガタン、ガタン」とレールの継ぎ目を越える時の音。路盤が悪く上下に揺れる車両。外見に似合なくて面白い。

この車両、かつての近畿日本鉄道(近鉄)の“スター選手”だ。大阪阿部野橋から吉野へ向かういわゆる吉野特急として華々しく活躍していた。
そして今大井川鐵道に来たわけで、乱暴に言ってしまえば元プロ野球選手が引退し、50歳になってなお現役でいたいと草野球チームの選手をやっているようなものなのだ。

線路脇の散りかけの桜がこの車両の置かれた状況を物語っているかのようだ。

さて、代官町駅へ行ってみたいわけだが、「代官町」というだけあってこのあたりは島田市金谷庁舎やら郵便局などの立派な建物が並んでいる。昔から金谷の行政の中心地なのだろう。駅は近いはずだが、それらしい雰囲気がまるでない。郵便局の角の細道を入るとわかったのは地図のおかげ。

日曜大工に失敗?代官町駅
細道を抜けたところにあった。代官町駅。日曜大工に失敗したような不揃いの木材が痛々しい待合所。金谷図書館の真裏、先程の役所関係の建物群が背を向けていてなおかつ水路を挟んだ上にホームも反対側に設置されている。列車が通り過ぎた後とは言え誰もいないし、役所最寄駅として機能している気配がない。

もう一駅くらい行けそうだとさらに歩き出す。ここから隣の日切駅までは10分くらいと近い。少しのどかな景色になってきた。バイパスをくぐり、集落の中を通る。

日切駅
日切駅。集落の外れにあった。さすがにここで区切って金谷へ戻ることにする。といってもここで何十分か待つことになるのだ。

誰も来ない日切駅
誰一人として駅に来る気配がない。何分かたった頃、駅前に自家用車がやってきたと思えば駅前の家の人だった。それもそのはず約2時間に1本。乗らないのではなく、乗りたくても乗れない。もはやローカル線ですらないのかも知れない。そんな駅で待つ一人の客となる。もはや芸術だ。

老朽化している
線路脇に立っている乗車位置の標識は錆びているし、架線柱も朽ちてないか。それは言い過ぎだとしてもボロいことには間違いない。

発車時刻が近づくと遠くから灯りが見えてきた。なんとさっきの“近鉄特急”ではないか。まさか一編成で運用しているのか。同じ車両行ったり来たりなのか。それはさすがに違うか。
らしからぬ低速で入線してきて、あらら、乗車位置を通り過ぎて停車。そうか、他の南海とか東急の中古車両が20m未満車だから位置が合わないのか。でもそういうのは鉄道会社で直しておいてほしい。

揺れる元特急車
特急車らしく折り戸が内側に開いて車内へ。そしてローカル線らしく整理券を忘れずに取る。特急用として造られただけにやや豪華仕様でカーテンは付いているしふかふかの座席に座れるのは伊豆箱根鉄道踊り子以上に「タダ特」で良いのだが、よく見ると所々シートが剥げている。

走り出したらすごく揺れる。上下左右にまるで起震車。こんなに揺れる“近鉄特急”はありえない。線路状態の良くない大井川本線だから当然大手の幹線とはわけが違う。そのくせ車両前方の運賃表は液晶画面になっているし、自動放送もちゃんとアナウンサーが喋っているタイプで英語まである。かと思えば整理券の印字が甘く、古いタイプの発行器だとわかる。この会社のお金の掛け方がわからないが、沿線のどこにいるかわからない客よりも遠くからやってきて全線乗るようなありがたい観光客を優先した結果なのかも知れない。

先程見てきた新金谷でそこそこまとまった数の客を降ろし、終点金谷へ。もう日が暮れている。こちら大井川鐵道のアナウンス「かなや」は「バナナ」と同じようなアクセントだった。会社で違うのか。
金谷ではまさかの車内精算。たかだか18時で駅員がいない時間帯になるのだ。誰も運賃箱に小銭を入れている様子がない。ああ、やはりフリーきっぷなどの観光客ばかりなのだ。

中古特急車で運用される普通列車、あるいは中古特急車がメインで走るローカル線として少しだけ見てきたわけだが、行くまでに想像していた以上にミスマッチ感が凄まじかった。
かつての“スター選手”の余生とは言え老朽化した施設の中をかつての風格を感じさせながら走る場面は面白いけどどこか場違いな感じがするし、役不足な感じもするのだ。
観光鉄道か生活路線かのバランスも考えさせられたし、課題も多いと感じたが、でもそれがわかるわけだからちょっとだけでも現場に行くことは大事だな。

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